2026-03-17|40代の予期せぬ挑戦。人生初の居酒屋バイトを終えて…

週末の冷え込みも少しずつ和らぎ、本格的に花粉症が猛威を振るう季節になった。
ムズムズする鼻を押さえながら、腰~背中あたりに手を当てる。
ようやく、先週末の異様な疲労感が和らいできたようだ。

というのも、実は先週末、俺の人生においてこれまで全く想定していなかった、ある種の「異業種格闘技」とも言える出来事があったからだ。

まさかこの年にして、人生はじめての「居酒屋バイト」を経験してきたのである。

事の発端は、さらに数日前にさかのぼる。
仕事を終えて立ち寄った、俺の行きつけの居酒屋。
カウンターの端っこに陣取り、いつものように冷えたビールを傾けていると、馴染みの大将がつかみかかるような勢いで、やけに切羽詰まった顔をして俺の隣にやってきた。

「実を言うとな、今週末、急にスタッフが飛んじゃってさ……。回らないんだよ。頼む、ヘルプで入ってくれないか!?」

いやいや、ちょっと待ってくれよ、と俺は苦笑いした。
俺は普段、PCに向かってデザインやらシステムやらをこねくり回している、単なるテック・クリエイティブ寄りの仕事をしている40歳の男だ。飲食業の経験なんて、学生時代を振り返っても一度もない。そんなプロの厨房やホールの修羅場に、こんな素人のオジサンが飛び込んだところで、邪魔になるか皿を割るかの二択に決まっているじゃないか。

勿論、最初は丁重にお断りした。当然の防衛本能だ。
しかし、大将の猛烈な押しに耐え切れず、結局「一生のお願いだから!」と押し切られてしまったのだった。

そして迎えた、決戦の週末。
専用のエプロンをキュッと締め、生ビールの注ぎ方のレクチャーを受け、カウンターでスタンバイ。
「いらっしゃいませ!」の掛け声とともに営業が始まると、そこは完全に俺の知る世界とは異なる、生々しい別世界。

いつもはカウンターの向こう側から「大将、ハイボール!」と気楽に注文の声を飛ばしている俺が、今度はその声を受け止める側にいる。ジョッキに氷を詰め、酒を注ぎ、マドラーでステアする。サワーとかソーダ割とか、レシピ的には簡単な酒ばかりだったが、それでも「俺の作った一杯がお客さんの喉を潤すのか」と思うと、謎のプレッシャーがやばい。

とはいえ、日頃から仕事の段取りやタスク管理にAIツールを駆使し、生産性を突き詰めてきた俺だ。
このカオスな状況すらも、一種のアルゴリズムとして捉えてみる。

  • オーダーの優先順位を脳内でソート。
  • グラスを洗いながら、次に呼ばれそうなテーブルの動線を予測。
  • お客さんのお酒が切れていないかをチェックし、時折会話を挟む。

・・・そんな余裕、あるわけないだろ。

目の前の注文と、次から次へと積み上がる洗い物の山、テーブルの後片付けをこなすので手一杯。慣れない仕事ということもあって、余計なことを考えている暇は皆無。開店して数時間、とにかく手足を動かし続けるのみ。

ようやく落ち着いてきたのは、まもなく閉店の頃合い。
何時間も立ちっぱなしで仕事をしていたため、背中から腰にかけて(脊柱起立筋?)の痛みがヤバい。

普段からジムでの筋トレは欠かさずこなしているし、毎朝プランクもしていて、同年代の連中に比べれば運動はしている方だと思ってはいたが・・・

「ジムでの短時間の高負荷な一撃」と「何時間もぶっ通しの立ち仕事」は、使う筋肉の部位も持久力も全くの別物だったらしい。前かがみで酒を作り続け、重いジョッキを運び続けた結果、背中の筋肉がバキバキに張り詰めていた。実は始まる前から「ずっと立ってるのはキツそうだぞ」と懸念してはいたが、まさかここまでとは……。

仕事自体は、目立った粗相もなかった(はず、たぶん、おそらく)し、自分なりによく動けた気もするが、あの背中のつらさは、正直もう二度と味わいたくない。笑

そんなことも思いながら家に帰りつき、シャワーを浴びながら、疲労困憊の体でふと考えてみた。

40歳という年齢になると、ある程度自分の人生の「型」が固定化され、予定調和な日々になりがちだ。そんな中で、自分の快適な枠を飛び出し、全く新しい仕事を経験できたこと。それは、バイト代なんかよりもずっと、俺の視野をグッと広げてくれる有益な時間だったと思える。

俺がいつも当たり前のように享受していた居酒屋という空間が、どれほどのハードワークと気づかいの上に成り立っているのかを、文字通り自分の肌と脊柱起立筋を通じて深く学ぶことができたのだから。

それに何より、いつもお世話になっている大将のピンチを救えた(はず)のだ。
誰かから頼られて助けるという行為は、生きているという実感を与えてくれる。

さて、すべてが終わった後、
「おお、マジで助かったよ! 意外と動けるじゃん。次はいつシフト入れる?」
とニヤニヤしながら聞いてきた大将に対する、俺の返答だが、

「いや、俺の腰と背中が砕け散るから、もう無理!!!笑」

次からはまた、ただの「いつもの客」として、カウンターの向こう側から美味い酒と料理を注文させてもらうことにしよう。

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